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パラソルギャラリーの実績
総評
「文化」は「空間」で表徴されると同時に、「時間」の経過の中で育まれていくものです。例えば、時を経るに連れて、衰退し、寂れ、記憶から消滅していくものを、我々は「文化」と呼ぶでしょうか。時とともに、磨かれ、活性化し、人々の生活を楽しく、豊かに賦活するものこそ「文化」の名に相応しいのだと思います。「文化」は「時間」によって「熟成」されるものだからです。
しかし、資本主義経済が高度に昂進する現在では、「文化」はとても旗色が悪く見えます。なぜなら「時間」の関数である「文化」は、すぐには商品化しづらいからです。身も蓋もない言い方ですが、「それは儲かりますか?」といった数値化しやすい価値が優先的に問われます。ですから、「時間」と強くかかわりがあるものは、短期的には利益を生み出さないという理由だけで、価値のないものと見なされがちです。そして、「自然」は壊され、「伝統」は忘れられ、「文化」はないがしろにされてきました。
特に、「都市」においてその傾向が顕著にあらわれてきます。昨日まで慣れ親しんだ「景観」がわずかな時間で改変されてしまいます。しばらくすると、以前のそこは、どのような「景観」であったのかさえ、思い出せなくなるほどの「速度」で変化していきます。消費の坩堝である「都市」では「時間」を削ぎ落とすために、「速度」も重要なファクターになります。ほんとうは「時間」がゼロになることが最も合理的で、効率的な経済活動だとも言えるからです。
こうした忙しい資本主義経済社会の中で忘れられているのは、「人間は時間的存在である」ということです。肌触りのある人間の営為は常に「時間」とともにあるということです。そして、言うまでもなく「文化」は「人間という時間的存在」によってのみ、生み出されるということを忘れてはならないと思います。
「都市文化とはなにか」という問いかけは、常にこの審査会の中で議論されるメインテーマですし、この賞が存続するかぎり問い続けられるものでもあります。今回の都市文化賞では、特に前段で述べたように「時間」という観点を重視しながら応募作を、それこそ時間をかけて審査しました。
そしてグランプリとして「景観まちづくり部門」で応募された「パラソルギャラリー」を選定しました。時間を遡ると、2000年に千葉駅前大通りが完成しました。ケヤキ並木で彩られ、石舗装の歩道も拡がり、美しく整備された千葉市の顔です。しかし、より魅力的な「都市景観」とするには人の賑わいが必要不可欠です。
「パラソルギャラリー」はこうした賑わいを演出するために、千葉市が主催する「都市景観市民フェスタ」の一環として2000年に第一回が開催されました。パラソルを舞台に見立て、創作活動をする人たちがまちなかにギャラリーを開き、そこに人が集まり、賑わいを作り出します。
2009年に千葉市からの補助金が無くなりましたが、実行委員である出展者が費用を自己負担し、現在まで長きにわたって続けられています。しかも、年々出展者、来場者が増え、街の風物詩として定着してきました。当初から千葉大学が運営に深くかかわり、実践的まちづくり教育の場になっているのも効果をあげています。さらにこの活動は、イベント時だけではなく、日常においても賑わいを演出する路上の利活用を促しています。
「市民」と「行政」と「大学」が一体となって作り出し、長い時間をかけて進化させてきた「賑わいの景観づくり」とも呼びうるこの活動は、千葉市が全国に誇れる「都市文化」として高く評価したいと思います。
千葉市景観総合審議会
千葉市都市文化賞表彰選考部会 部会長 栗生 明